竹原春泉画『絵本百物語』が発刊したのは天保十二年(1841)この頃は激動の始まりであって天保の大飢饉がありました。
全国的に天候不順が続き、凶作で米価が高騰、百姓一揆も起こりました。
このような世の中で新たな妖怪たちは誕生しました。
今回は甲斐の国の「白蔵主(はくぞうす)」という老いた狐の話をご紹介します。
老中水野忠邦の指導で行われた倹約令、株仲間の解散、物価統制、上知令の発布などにより、幕府財政の立て直しをはかる改革に多くの庶民たちは苛立ち、迷惑な改革であったようです。
倹約令では色刷り版画が制限され、役者、美人画、芸者などの題材も風俗取締令で禁止となりました。
この時代に人気者になっていた歌川国芳は遊女や歌舞伎役者の描写を禁じられ、怒ってしまいましたが、庶民大衆の怒りを妖怪の姿で表して次々と妖怪画を描いていきました。
ところで歌川国芳って!?ユニークで素晴らしい画を残しています!
今回ご紹介するのは竹原春泉画『絵本百物語』の中の「白蔵主」です。
(参考文献・竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話 編・京極 夏彦、多田 克己他 Wikipedia)
Contents
「絵本百物語」甲斐の国の老いた狐、白蔵主(はくぞうす)
甲府市古府中町にある大泉寺の境内にある夢山稲荷神社は夢山と呼ばれる山のふもとにあります。
白蔵主の事は狂言にも作り よく人の知るところなれば ここに略しつ
「白蔵主のことは狂言の演目にもなり、よく知られているので、ここでは略す。」
白蔵主(はくぞうす)
その昔、甲斐の国の夢山のふもとに弥作という狩人が住んでいました。
弥作はネズミから熊までを捕って、それで狐を釣る餌を作っては狐を捕り、その皮を剥ぎ取って市で売って生計をたてていました。
夢山には年取った白狐が棲んでいて子をたくさん産んだのですが、弥作に捕まったので残っていたのは僅かでした。
親の狐はこれを怒りました。
弥作の叔父が宝塔寺(ほうとうじ)という寺の法師となっていて、白蔵主と言いました。
親の狐はこれを知っていて、あるとき、白蔵主に化けて弥作の所に行き、「殺生は来世に障るので狐を捕るのを止めよ」と言って罠を持ち帰りました。
しかし弥作は生業が立ち行かぬところから、白蔵主に事の由を訴えて再び銭を稼ごうと宝塔寺に赴いたのです。
それに気付いた親の狐は叔父を喰い、白蔵主になりすまし、以来、50年にわたって住職として化け続けていました。
倍見の牧という所で鹿狩りを見物していたときに、二匹の犬に喰われてしまい、ついに姿を現しました。
老いた白い狐の尾には白銀の針のような毛が生えていました。
人々は祟りがあることを恐れて白狐の屍を埋めて塚を作り、祠を建てて祀りました。
それを今も伝えて狐の杜といいます。
(参考・竹原春泉 絵本百物語 多田克己編)
白蔵主(はくぞうす)永徳元年(1381)和泉少林寺塔頭に伝わる話
「絵本百物語」が発刊したのは天保十二年(1841)で、竹原春泉が描いたものですが、上の画は父親の浮世絵師竹原春朝斎が描いたものでした。
狂言などの題材とされ、伝えられていました。
白蔵主(はくぞうす)永徳元年(1381)和泉少林寺塔頭に伝わる話
永徳元年(1381)和泉 少林寺塔頭(たっちゅう)に伝わる逸話は、少林寺の白蔵主という僧の話となります。
稲荷大明神を信仰していて、毎日法施を怠らないという真面目な僧でした。
ある日、竹林で片足を失った三本足の白狐に出会い、連れて帰り大切に育てました。
その狐の子孫も三本足であり、寺内に住んでいたという。
白蔵主には狩りが好きな甥がいました。
三本足の白狐はこの甥のことを恐れて、白蔵主に化けてその甥のところに行き、殺生の罪について語って戒めました。
しかし、甥は狐が白蔵主に化けていると知り、鼠の天ぷらで引き寄せて捕らえてしまいました。
この逸話を題材として狂言「釣狐」が作られたということです。
参考・Wikipedia白蔵主
おわりに
人の掴むことのできない心の中に住む「もの」が妖怪として次々と不思議な現象として登場しているのか、時代は流れていくのに楽しませてくれるものです。
大昔から絵師たちが多くの妖怪画を残しています。
百鬼夜行絵巻は室町時代から明治、大正時代まで多く描かれた絵巻物ですが、こちらに描かれている妖怪はエグいというか、グロテスク。
絵本百物語の妖怪たちはグロテスクであり、滑稽でもあるような気がします。
当時の様子が垣間見えるようであり、当時の生活の様子を想像すると「それはね・・・こういうことよ」と教えてあげたくなる。そう、今の時代だからね。
100年後の妖怪たちはどのような姿で登場するのだろうと想像すると、アニメ化が更に進み、新しい妖怪が誕生しているのだろうか・・・?
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